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勇者が『スマブラSP』の海外大会で禁止に ― 乱数とEsports

スマブラSP』のキャラクター「勇者」がオーストラリアの大会にて使用禁止となりました。経緯や詳細については、Automatonさんが書かれたこちらの記事が詳しいのでぜひ読んでください。

勇者の使用を禁止する決断に至った理由として、オーガナイザーのSASCは次のように説明しています。

RNG permeates every element of Hero's design, from spell selection to random critical hits and hocus pocus effects. While randomness has to varying degrees always been present in competitive games and other Smash games, Hero is so dependent on randomness that it cannot be 'played around' or accounted for in competitive play. The argument is similar to the reason why items are banned in competitive play. [...] We want to emphasise that this ban is not because hero is too strong, but because he is anti-competitive. We believe that tournaments are meant to provide an opportunity for players to demonstrate their skill and that, as a general rule, the player who plays more skilfully should emerge victorious. Hero's design has a very strong potential to de-emphasise player skill which isn’t fair for those who work hard to improve their abilities for competition.

(以下訳)

呪文の選択やランダムに発生する「かいしんのいちげき」、そしてパルプンテの効果と、勇者のデザインはことごとく乱数(RNG)に満ちたものとなっています。乱数は今までも、ほかのゲームやスマブラにおいて多かれ少なかれ存在してきましたが、勇者はランダム性に依存するキャラクターです。そのランダム性はプレイヤーが対処できるものではなく、ゲームの競技性を損なうものです。この点は、大会においてアイテムが禁止されている理由と同等のものだと言えます。(中略)私たちは今回、勇者が強すぎるから使用禁止にしたのではありません。競技シーンにふさわしくないから、という理由で決断を下したことを強調したいのです。トーナメントはプレイヤーがスキルや実力を発揮し証明するための場であり、優れたプレイングを行った選手が勝利を掴むべきです。しかし勇者を使用することにより、マッチの勝敗にプレイヤー個人のスキルがあまり関係なくなってしまう恐れがあります。大会のためにたゆまぬ努力をしてきたプレイヤーに対し、不公平だと私たちは考えます。

つまり、スマッシュ攻撃が一定の確率で強力になる「かいしんのいちげき」、そして下必殺ワザのコマンドがランダムで選ばれることは、プレイヤースキルに依存しないものでありながら、勝敗に大きく影響してしまうのは大会として、そしてEsportsとしてどうなんだ、という議論なわけです。

現実のスポーツでたとえ話をすると、サッカーにおいてゴールが一定確率で2点になる、もしくは野球においてバッターがランダムに選ばれる、というルールに変更されたとしましょう。これらは勝敗に直結はせずとも大いに影響をおよぼすもので、そもそもの実力差があったとしても、ランダム性によってそのパフォーマンスが上下してしまいますよね? こういったランダム性を原因として敗北した場合、プレイヤーや監督、ファンはルールの変更を求めるでしょう。

ただ、長期的な目で見ればより優れたプレイヤーが多く勝利するだろうし、運要素を含む攻撃に当たらないよう立ち回ればいい、といった反論が存在するのも事実です。これは人によって意見が分かれるトピックであり、Esportsにおける大きな議題の1つといっても過言ではないでしょう。

この乱数とEsportsの関係性について、詳しく説明してくださっている動画があります。それがこちらです。

www.youtube.com

スマブラに対して「運」はどのように影響を及ぼすのか?

投降者であるMy Smash Cornerさんは、対戦ゲームにおける「運」、つまり乱数(RNG)を以下の3つにジャンル分けしています。

  1. Reactable RNG - 反応可能な乱数
  2. Unreactable RNG - 反応不可能な乱数
  3. Unfair RNG - 不公平な乱数

どういったものか、この記事でも説明しましょう。

 

1. Reactable RNG - 反応可能な乱数

結果自体はランダムだが、そのランダムで選ばれたイベントにはプレイヤーが反応するだけの時間があり、対処可能なのがこの乱数です。

例えば、スマブラにおけるピーチの下必殺ワザは、以下のアイテムからランダムに1つを掘り出します。

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得られるアイテム自体はランダムですが、何が出たかは一目瞭然で、対戦相手は反応が可能ですよね。運良く(悪く)ボム兵が出たとしても、当たらないよう立ち回ることが可能な訳で、逆にピーチ側はボム兵を当てて撃墜できるような戦略を取ることが必要になってくるわけです。

今回使用禁止となった勇者の例で言えば、下必殺ワザの呪文コマンドがこれに当たると言えるでしょう。表示されるコマンド4つ自体はランダムに選ばれるわけですが、双方のプレイヤーともそれに反応が可能で、それに応じた対策や立ち回りが理論上可能となります。

 

2. Unreactable RNG - 反応不可能な乱数

逆に、その速度や性質からプレイヤーの反応が不可能である乱数も存在します。

例えば、ルイージの横必殺ワザである「ルイージロケット」は、一定の確率で暴発を起こします。『スマブラSP』ではその確率が1/10となっていますが、『DX』では1/8となっており、それによって撃墜されるシーンもしばしば見かけました。

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ほかにも、Mr.ゲーム&ウォッチの横必殺ワザ「ジャッジ」も、一定確率で「9」が表示され、命中できればほぼ確実に敵を撃墜することが可能となっています。

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勇者の「かいしんのいちげき」もこの、反応不可能な乱数にカテゴライズできるでしょう。ランダム性にこそ依存していますが、運が良ければ早期撃墜が可能であり、そもそもスマッシュ攻撃ですので、相手の蓄積ダメージが高ければ通常のスマッシュ攻撃でも撃墜できる、(フレームデータや後隙などを除けば)まさにデメリットのない優秀な攻撃というわけです。

 

3. Unfair RNG - 不公平な乱数

そして最後のジャンルが「不公平な乱数」です。「不公平」とは、一体どういうことでしょうか。

今までの2つの乱数は、あくまでプレイヤー対プレイヤーの図式は崩しておらず、リスクが存在するものでした。しかしこの不公平な乱数は、図式を「ゲーム対プレイヤー」に変化させるものであり、まさに運がいいプレイヤーに恩恵を与えるものとなっています。

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スマブラX』では、ステップや走行反転、横スマッシュ攻撃や横必殺ワザを地上で行った際、低確率でキャラクターが「転倒」します。これは完全にランダムに発生するもので、コンボの途中で攻撃側が「転倒」することもあれば、後隙の多い攻撃を行った敵に反撃しようとした時に「転倒」することもあります。立ち回りをミスしていないのに、運悪く転倒したために撃墜されることもあるでしょう。

スマブラX』の続編、『スマブラfor』では「転倒」がなくなりましたが、別のランダム要素が追加されました。それが「落下演出」のランダム性です。

画面上からKOした場合、キャラクターはそのまま撃墜されるか、奥に飛んでいき撃墜するいわゆる「星」、画面手前に衝突する「手前やられ」の3パターンで撃墜が演出されます。これは完全にランダムであり、キャラクターの蓄積ダメージやふっとびの距離などは関係がありません。ではこれがどのように不公平かというと、この3つの演出は実際に撃墜として処理されるまでにかかる時間が異なるのです。

そのため同時に画面上からKOした場合、通常の撃墜が一番早く処理されるため、先にバーストラインに到達していたとしても、「手前やられ」や「星」で撃墜されたプレイヤーが勝利することとなります。

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勇者はこのような「不公平」なランダム性はありませんが、強いて言うなら呪文の1つ「パルプンテ」でしょうか。この呪文はランダムに効果を発動する呪文であり、運が良ければ巨大化や無敵化になることもあります。逆に運が悪いと、メガンテを使用して自滅ということもありえます。もしこのコマンドが選ばれていたとしてもプレイヤーが使用しなければいい話なので、必ずしも不公平というわけではありませんが、ランダム性に依存しすぎているという観点では不公平かもしれませんね。

 

3つの乱数について説明してきましたが、スマブラに限らず対戦ゲームでは運要素に依存したキャラクターやシステムは、少なからず存在します。もちろんそれで大会や勝負が盛り上がることもあれば、理不尽な目に合うこともあるでしょう。しかし勝敗がすべてでありれっきとした競技であるEsportsにおいて、そういった運要素を嫌う者が一定数存在することも事実であり、こういったキャラクターを使用禁止にするか、はたまたプレイヤースキルで捻じ伏せるべきだという結論に至るか、議論はまだまだ続いていくでしょう。